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58下関駅〜大泊〜通(サンデン交通)

下関など山口県西部で多くの路線を運行するサンデン交通、その中でも一番の長距離路線と思われるのが下関駅と日本海に浮かぶ青海島の大泊を結ぶ準急仙崎線です。 朝一番の大泊行きはまだ夜も開けきらぬ冬の下関駅前を7時1分に出発しました。準急なので市街地のバス停はほとんど通過します。 関門橋の下をくぐり抜けると関門海峡越しに企救半島から今日の太陽が姿をあらわしました。

関門海峡の夜明け

豊田町西市で休憩する青海島行きバス

木屋川を堰き止めた豊田湖
途中の小月駅からは周防灘を離れ山陰へと北上します。旧菊川町の中心の 田部付近までは国道を走行しますが、それ以外は格下の道路を走るのがこの路線の魅力。早くも車窓には寒さに強い石州瓦が目立つようになりました。 赤い屋根は山陰の象徴です。しかしこの路線の地理上の分水嶺は日本海側からわずか5kmほどの大寧寺の峠(山口県では「たお」と読むのが一般的です)、 準急仙崎線はゆっくり登って駆け下りる路線なのです。
ほぼ中間地点の豊田町西市でこの便は5分あまりの休憩をとります。旧豊田町は町内を流れる 木屋川に生息するゲンジボタルが有名ですが、壇ノ浦が近いせいかここでも平家の出る幕はないようです。 さらに上流に進むと左手には木屋川を堰き止めた豊田湖が見えてきます。石柱渓の入口にあたる石柱渓口バス停、安徳天皇御陵のある天皇様バス停を過ぎると 長門市に入って俵山温泉へ寄り道しますが、俵山温泉バス停では意外にも多くの客が下車し車内はすっかり寂しくなりました。ここを始発として青海島に向かう便も多く 設定されていますから、知る人ぞ知る名湯なのでしょう。バスは元の道に戻って少し進むとあの大寧寺峠にさしかかります。この年(2019年)の9月8日に峠の下を 短絡するトンネルが開通したようですが、バスは今まで通り標高214mの峠を通過して五感を刺激してくれます。最高点を越えると下り急勾配のヘアピンカーブが続き、 それが終わると大内義隆終焉の地として知られる大寧寺を左手に見て湯本温泉へと滑り込みます。さきほどの俵山温泉と違ってこちらはどの建物も近代的です。 この後はしばらくJR美祢線に沿った細い道を進み長門市駅に到着しました。

ひなびた俵山温泉

美祢線に沿って(復路で撮影)

砂嘴集落の仙崎から見る日本海と青海島
長門市駅から終点大泊までわずか12分なのですが、海が楽しめるおすすめの区間はようやくここから始まります。仙崎駅までの区間、 左手には日本海、前方には青海島が迫ります。金子みすゞの生家のある仙崎駅前の通りを東に横切ると今度は右手に仙崎漁港を望み、やがて前方に青海島とを 結ぶ青海大橋が視界に入ります。 仙崎と青海島は興味深い地形です。青海島の存在のために波が穏やかな長門市北部では沿岸流が運ぶ砂が堆積し砂嘴(さし)を形成しています。 ここにできた集落が仙崎です。さらに砂嘴が成長すればやがて青海島とつながる陸繋砂州(トンボロ)となるかもしれません。トンボロの代表例である函館に ロープウエーがあるように砂嘴と島には一定の標高差があり、ここでは急勾配の青海大橋がその役割を果たしています。橋から見おろす透き通った海と仙崎の街は 壮観です。
青海島の入口近くにある終点の大泊に到着したのは9時41分、長距離の利用客が多い路線とはいえ下関駅から2時間40分を乗り通した客はさすがに一人だけ。 静かな入り江の前にある大泊バス停には一軒の小さな商店と広大なバスの待機場がありました。

金子みすゞの生家跡

青海大橋を渡る

大泊バス停
せっかくですから後続のバスに乗換えさらに島東端の通(かよい)に向かってみましょう。夏みかんの原樹のある大日々(おおひび)から先は南側の海沿いを 走ります。海面は湖のように穏やかで静ヶ浦というバス停名にも納得です。対照的に島の北側には集落もなく、荒波により数々の奇岩が形成されています。 青海島は島全体が天然記念物に指定されていて、仙崎から島を一周する遊覧船が就航しています。
バスはいよいよ最後の通の集落に入りました。以前は青海島周辺で盛んにクジラ漁が行われていて、通漁協前バス停近くにはクジラの墓が建っています。 実際に墓に参って説明文を読むと、これは親クジラを供養したものではなく、胎内にいた子クジラだけを哀れんで葬ったものだとわかります。一方で正福寺入口バス停の 近くの裏路地には金子みすゞがよく訪れたという父庄之助の生誕地があります。みすゞの「鯨法會」という詩の一節には、 「沖で鯨の子がひとり、その鳴る鐘をききながら、死んだ父さま、母さまを、こひしこひしと泣いてます。」とあり、 漁師とは異なり親クジラに対しても憐憫の情を覚えていたことがうかがえます。

青海島の車窓

鯨の墓

終点の通(かよい)バス停
通の中心地から少し外れた寂しい場所にある通バス停、静かな終点にひとり降り立ち、目の前に広がる静かな海をしばらくぼんやり眺めていました。
金子みすゞ、中原中也、種田山頭火。これら山口県出身の文人は夭逝や貧困のために生前に相応の評価を受けられず、 没後しばらくして第三者によってその名が広く世に知られることとなりました。青海島を走るバスも廃止されてはじめて、「良い路線じゃったんよ」と偲ばれる ことがありませんように。
下関駅7:01−【サンデン交通※1】→9:41大泊10:14−【サンデン交通※2】→10:34通
2019年12月の情報
休日おでかけ1dayパス1020円使用 普通運賃は※1が2130円、※2が490円


57窪平〜洞雲寺・塩平(山梨市営バス)
山奥にあったバス優先道路


牧丘循環線の起点となる窪平バス停
山梨市の旧牧丘(まきおか)町、その中心地窪平(くぼだいら)から山梨市営バス牧丘循環線に乗ってみましょう。 南向き斜面に広がる桃やぶどうなどの果樹園を、日本百名山に名を連ねる山々が囲んでいます。
冬の取材のため車窓の色づきは今ひとつですが、春には桜や桃の花と雪山、秋には果実と紅葉といった彩りが楽しめるようです。 常磐橋までは皷川沿いの県道206号線経由または高地の果樹園経由となりますが、眺望の良い後者が断然おすすめ。同一便なら往路か復路で必ず通りますが、 今回は復路で次の便を利用し往復とも後者を選択しました。 県道を外れると果樹園の入口にジャンボ鶴田園という看板を見つけます。 ジャンボ鶴田とはかつてのプロレスラーでここがその実家、盆地の標高差と果樹園での手伝いが強靭な肉体を作り上げたとの説明にも納得です。 これより延々と上り坂が続きます。沿道には立派な石垣と蔵が立ち並んでいますが、特に山梨らしい風景といえば「垈(ぬた)」の 漢字が入った大垈(おおぬた)バス停、大きな丸い石がそのまま祀られている丸石道祖神です。 付近で最も標高の高い真智まで登れば果樹園の棚越しに見える南の富士山、東の大菩薩嶺がいっそう輝きを増します。 バスはいったん西山まで下って通称フルーツラインを西に走り常磐橋で県道に合流します。

南には富士山(田屋〜大垈)

東には大菩薩嶺(常磐橋〜小田野)

牧平からは一部の便が赤芝の集落まで往復しますが、この赤芝川沿いの約2kmの区間もおすすめです。すぐに右手に見えるのが元中学校の 木造校舎、その後膝立バス停を過ぎて樹齢400年とも言われるエドヒガンの天王桜をくぐって標高がちょうど900mの赤芝バス停に到着します。


赤芝経由便で見える牧平地区の元中学校

洞雲寺に到着したバス

洞雲寺としだれ桜
元の県道に戻って皷川を2km弱上ればしだれ桜で有名な洞雲寺、多くの便はここで折返しとなりますが、1日に3便だけこの先の塩平まで 運行します。途中集落内の細道はすれ違いが極めて困難なため、なんと分単位で進入や駐車を禁止するバス優先道路として指定されています。 注意書きの看板が集落へのすべての入口に大きく掲げられ、その徹底ぶりに過去にバスが立ち往生して大変な目にあったのではないかと 勘ぐります。まるで何かを警戒するようにゆっくりバスは集落を抜けて行きました。

洞雲寺から先は時間指定のバス優先道路

集落内の狭い道路(洞雲寺〜漆川)

漆川付近の細道を駆け上がる塩平行きバス 1日1回だけの光景(漆川〜ほうき窪)
ほうき窪より先の針葉樹林に囲まれた寂しい道を抜ければやがて視界がひらけ、振り返れば運転手が沿線で一番という雄大な富士山が姿を見せます。 終点塩平では茅葺きにトタンをかぶせた缶詰屋根が出迎えてくれました。道はここより先は乙女高原、さらに長野県川上村へと続いているようですが、 人家もなく冬期は閉鎖されています。暖冬傾向とは言いますが、標高1000mを上回るここ塩平で年末にほとんど雪がないのは不思議です。 毎年1月14日に塩平で行われているという獅子舞も昔とはまるで違った光景なのかもしれません。

最後の区間は人家のない急坂

振り返れば大きな富士山

終点塩平 ここより先は冬期閉鎖

山梨市駅10:21−【山梨市営バス200円】→10:34窪平10:36−【山梨市営バス200円】→11:12洞雲寺…(徒歩)…生捕横手 12:41−【山梨市営バス200円】→13:24窪平13:29−【山梨市営バス200円】→13:48塩山駅
2019年12月の情報



56八郎潟駅前〜ホテルサンルーラル大潟前(大潟村マイタウンバス)
次のバス停まで14km
(※2019年10月より南秋地域広域マイタウンバスに変わります。)

北海道でも山岳地帯でもありません。次のバス停まで14kmというスケールの大きいバス路線があります。秋田県の八郎潟干拓地を走る大潟村マイタウンバスです。 2008年9月末、秋田中央交通の路線が廃止されたときに代替の大潟村循環バスとして試験運行を開始、2011年4月より現在の名称となりました。 このたび2019年9月末に五城目への路線バスが廃止されるのに合わせ10月からは南秋地域広域マイタウンバスへと変わります。

まず大潟村の資料などから八郎潟について簡単におさらいしておきましょう。 干拓前の八郎潟は琵琶湖についで全国2番目の面積を持つ湖、水深は4〜5mと浅い汽水湖でワカサギなどの豊かな漁場でした。戦後の食糧不足などから、以前より計画のあった干拓が1957年から1964年にかけて本格的に実施され、漁民たちには漁業補償がなされました。八郎潟は広大な田園地帯となりましたが、入植者はその後の国の減反政策に振り回されます。なお干拓地は海水面より標高が低いため今もポンプを使って排水しています。

奥羽本線八郎潟駅

八郎潟町役場付近の田園地帯を走る

大潟橋を通過 ここから干拓地の大潟村
さて、話をバス路線に戻しましょう。八郎潟駅前にやってきたバスはピンクと黄色に塗られた鮮やかな車体。駅前の交差点をいくつか折れて八郎潟町役場付近の田園地帯を行きます。やがて東部承水路にかかる大潟橋を通過するとこれより干拓地の大潟村、左右には防風林と思われる街路樹が延々と続きます。実はこの多くが桜の木であり、春には桜と菜の花で車窓が埋め尽くされ「桜と菜の花ロード」と呼ばれています。バス停や車体の色はこれを表現したものだったのです。行き違いの難しい狭い道も急カーブも一切なく車酔いの心配はありませんが、これほどのどかな平野の一本道では睡魔が襲います。運転手にとっても厳しい路線でしょう。約5kmの直線道路を走行中にようやく変化が訪れました。中央幹線排水路にかかる御幸橋です。先ほど触れたとおり干拓地は海水面より低いので、橋はかなり盛り上がっています。橋のすぐ手前の左側には円錐形の人工の山、大潟富士があります。山頂部が海抜0mという自称「日本一低い山」ですが、橋に気を取られて見落としてしまいがち。軟弱地盤のため土台は発泡スチロールでできているそうです。
続いて眠気覚ましになるのが東経140度線、さらにわずか5分後に見えてくる北緯40度線の看板。東経140度線と北緯40度線が交差する大潟村では、この点を「経緯度交会点」として碑を立てています。(ただし2002年4月に測量法が採用する測地系が世界標準に変更されたため、碑とは緯度経度とも数100メートルのずれが生じています。)日本の陸地で10度単位で交差するのはここだけです。

この先5km以上直線道路 人家なし

横の車窓も人家なし

御幸橋から見る中央幹線排水路

駅から14分で東経140度線通過

駅から19分で北緯40度線通過

14km走行してカントリー公社事務所前到着
八郎潟駅から約25分、ようやく次のカントリー公社事務所前バス停に到着しました。ここまで約14km、平野部を走る一般路線バスとしては全国最長ではないでしょうか。車内放送はなく運転手が温かい秋田訛りで乗降客の有無を確認します。バス停の前には穀物の貯蔵施設で穀物搬入用エレベーターと貯蔵用のサイロからできているカントリーエレベーターがあり、その貯蔵用のサイロには「美人を育てる秋田米」と書かれていました。このあたりから急に施設や人家が出現、終点まで1分おきにバス停を通過し運転手の沈黙を破ります。村役場や農協前を通過して同乗の2人の客は全員下車、駅からちょうど30分でバスは立派なホテルの建つ終点ホテルサンルーラル大潟前に滑り込みました。

静かで快適な車内

終点のホテルサンルーラル大潟前到着 車体の塗装も鮮やか
誕生から50年あまりの大潟村、日本で一番新しい村ですがここでは到底書ききれない苦悩の時を重ねています。しかし人々は苦悩以上に工夫も重ね、暮らしやすい村は若者の定着につながっています。今回の同乗客もすべて若者でした。初めて村を訪れた9年前、バスの運賃は無料でした。2019年10月から運賃は100円から200円に値上げされますが、村民には差額の100円分が補助されます。

次はぜひ春に訪れ、車体に描かれている桜と菜の花のトンネルを駆け抜けてみたいものです。大潟村マイタウンバス、約10年間おつかれさまでした。
八郎潟駅前12:18−【大潟村マイタウンバス100円】→12:48ホテルサンルーラル大潟前…(徒歩2q)…JA大潟村13:23−【大潟村マイタウンバス100円】→13:50八郎潟駅前
2019年9月の情報



55美作河井駅〜大杉公会堂前(津山市営バス)
あばばす

かつて岡山県の山の中に阿波村(あばそん)という人口700人の小さな村がありました。村には鉄道も中学校もなく最寄りの駅とを結ぶ中鉄バスだけが村の足でした。しかしこの路線も廃止されることになったため村は代替となるバスを運行、その後2005年に村は津山市と合併して115年の歴史に幕を閉じました。しかし合併から10年以上経った現在でも懐古の念かものぐさかバス停には「村営バス」と記されています。
交通の不便さや自然の厳しさゆえに長らく都市部の開発からは取り残され、つい最近まで日本の原風景を色濃く残していた地域でした。 今回は村の玄関口である因美線の美作河井駅が旅の出発点です。現在は無人駅ですが今なお残る古い駅舎に期待が高まります。(かつてのバスはこの駅が起点でしたが、現在は鉄道の減便や通学などを考慮して加茂支所に近い小中学校を起点としているため、すべての便がこの駅舎の前を経由するわけではありません。)

因美線美作河井駅 この古い駅舎が玄関口

以前はここがバスの起点だった

車内もどこか古めかしい
駅前に停車していたバスに乗り込むと先客は地元のご婦人がただ一人。どこか古めかしい車内ですが整然としています。十数年前はボンネットバスを使用していたという情報もあったのですが、すでに売却済のようです。ただこの時代に初乗り運賃が50円というのは驚きの安さです。
バスは駅前の県道6号線を数百メートルだけ東に進みます。ちなみにこの県道は物見峠を境に岡山県津山と鳥取県八頭を結びますが、両県において共通して6号線という少し不思議な県道です。まもなくバスは6号線とわかれて加茂川に沿って阿波へと続く県道118号線を進みます。 ところで波とはおよそ無縁の山中に、阿波(あば)の東には宇波(うなみ)、北には江波(えなみ)という地名があります。県境を越えて阿波と宇波、阿波と江波を県道で結ぶ予定があったようですがいずれも開通には至っていません。

雪深い旧阿波村 立派な家並み

数軒の茅葺の屋根が散見される

終点大杉公会堂周辺に残る茅葺き
乗客のご婦人になぜ阿波に来たかを聞かれ、茅葺きなどの古い家並みを見に来たと答えると、もうそんなに残っていないと不安になる返答が。情報が確かならわずか数十年前まで村の多くの家屋が茅葺きで、最近でも多くが残っているはずなのですが…。確かに沿道に数軒の茅葺き屋根を見つけることができました。しかし事前に調べて目星をつけておいた立派な家は姿もなく、ある家は崩れているのです。そして何よりも残念だったのが終点の大杉公会堂。実はわずか10年ほど前まではこの建物自体が茅葺きで、その軒先にバス停の看板がぶら下がっていたはずなのです。それがすっかり新しく建て替えられています。来訪が遅かったようです。 時の流れや過疎という波に飲み込まれてしまい、修繕に手間のかかる昔ながらの家並みを維持するのは難しいのでしょう。それでも終点からも数軒の茅葺きの家をのぞむことができ、各バス待合所の屋根も茅葺きを模しています。しばらくは往時の余韻が楽しめそうです。

大高下(おおこうげ)バス停 人の姿はない

阿波の中心部に近い大畑バス停

終点大杉公会堂前から見る茅葺き
小雨の中を歩いて阿波の中心部まで戻ります。ごく最近まで茅葺屋根があったという大高下(おおこうげ)バス停付近は今でもなかなか魅力ある光景、この津山地方では下を「げ」と読む地名が多いようです。大畑バス停では加茂からやってきたバスから下校する中学生らしき数人が下車しています。このバスが先ほどの大杉公会堂まで行って折り返して戻ってきました。客の姿はありません。往路と異なり美作河井駅の構内には乗り入れないので、「駅近くの、やましたまでお願いします」と言うと、「さんげですね」とにこやかに答える運転手。こちらも「げ」ですか…。
美作河井駅15:21−【津山市営阿波バス150円】→15:33大杉公会堂前…(徒歩3q)…大畑16:35−【津山市営阿波バス100円】→16:42山下
2018年12月の情報



54本郷港〜田の頭(御所浦タクシー)
大きなアコウの木の下で

熊本県の天草諸島に御所浦島という有人島があります。島への海上交通は「おすすめ航路」でとりあげていますが、陸上交通も魅力的なのでご紹介。 この島内交通「御所浦町旅客自動車」は小規模なためか公式サイトもなく、一般の乗換検索でも表示されません。大浦線、江の口・烏帽子線、田の頭線、嵐口線の4路線があり、2台の車輌で運用しているようです。今回は隣接する牧島とを結ぶ田の頭線に乗車しますが、残念ながらというか予想通りというか他に客の姿はありませんでした。運行を担当するのは地元の御所浦タクシー、前方にはタクシーメーターがついていてバスと言うよりタクシーに乗車している気分です。

2016.12田の頭線時刻表 日祝第2・4土運休

本郷港で発車待ち

タクシーメーターもついているバス
島の玄関である本郷港を出発して数分で中瀬戸橋を渡り対岸の牧島へ。牧島に上陸して最初のバス停が牧本ですが、このバス停を覆うアコウの木が素晴らしい。アコウは九州沖縄など日本の南部に分布するクワ科イチジク属の木。このアコウは樹齢300年、樹高12.5m、もともとは防風を目的に植樹されたようですが、今もなおバスを待つ人々などに憩いを与える天草市の天然記念物です。

この中瀬戸橋を渡って牧島へ

海側から見た牧本バス停のアコウの木

牧本バス停を覆うアコウの木(復路で撮影)
この路線は途中で島北側にある椛の木集落に立ち寄る以外はほぼ南側の海岸線に沿っていて、離島の青く透き通った穏やかな海を堪能できます。長浦の入り江では真珠の養殖もしているようです。 樫の浦バス停のすぐ近くには電話ボックスを少し大きくしたようなアンモナイト館という建物があります。道路の工事中に発見されたという アンモナイトの化石がその場所にそのまま展示されています。ご厚意で少しだけバスを止めて見学させてもらいましたが、確かにこれは見事です。 古い地層が広がり恐竜など貴重な化石が多く発掘されるこの御所浦周辺は世界ジオパークに指定されています。 なおバスの車体にもアンモナイトが描かれていました。本郷港から18分で島の西端に近い田の頭に到着、家が数軒立ち並ぶ海沿いの静かな終点です。
途中での乗降客はおろか、沿道では人影すらほとんど見かけることはありませんでした。恵まれた自然環境とは裏腹に若者が定着せず高齢化が進み、人口2000人余りの御所浦で昨年は80人近い方がお亡くなりになったとのことです。

アンモナイトの化石も見られる路線

田の頭付近から黒島方面を望む

終点田の頭バス停で折り返し
この情報氾濫社会でも詳細が検索できず、平日を中心に1日2往復しか運行されていない御所浦町旅客自動車田の頭線。 地方にはこういった魅力あふれる路線が隠れています。そして多くが知らぬ間に消えています。
本郷港11:38−【御所浦タクシー300円】→11:56田の頭11:58−【御所浦タクシー300円】→12:16本郷港
2016年12月の情報



53吉原中央駅〜中野〜曽比奈(富士急静岡バス)
富士山へ 駿河湾へ

日本一高い富士山頂から最も近い駿河湾まで直線でわずか25km、富士市はこれに沿った道をルート3776として標高0mから3776mまでの完全登頂を提案しています。 今回ご紹介するのはその一部である通称大渕街道を走行する循環線で、行きは富士山、帰りは駿河湾を前方車窓から楽しめます。

列車は来ない吉原中央駅

前方の車窓には富士山

富士総合運動公園付近から
起点は富士市の中心街に近い吉原中央駅、駅といっても鉄道の走らないバスターミナルです。 快晴にも関わらず富士山の周りだけ低い雲に覆われていて頭も見えたり隠れたり。 途中バスは富士総合運動公園に寄り道しますが、このあたりから静岡らしい茶畑が多く見られるようになります。
中野交差点を左折しバスは標高約300mに位置する大淵団地を時計回りに循環します。団地内からは富士山があまり見えないこともあり 途中の城山町入口バス停で下車、曽比奈西まで歩いてみました。 この周辺は富士山を背景にした茶畑が実に鮮やかです。先程まで乗車していた循環線のバスと茶畑の中ですれ違いました。 富士急静岡バスの緑色はお茶をイメージしたものだと言われていますが、たしかに車体に描かれた茶畑にも見えます。

右も左も茶畑 八王子町付近を走る曽比奈行のバス

みかんと曽比奈下バス停

富士山と茶畑と八王子町バス停
曽比奈から1kmほど東に大淵笹場という広大な茶畑があり絶景を求めて多くの写真家が訪れます。 曽比奈にはこの循環線以外にも富士駅などからいくつかの路線が乗り入れているので、 バスを利用して大淵笹場へ向かう人も少なくないようです。 残念ながら雲がかかりはじめた正月の大淵笹場に人の姿はほとんどありませんでした。 バスの車窓からも茶畑と富士山が一緒に楽しめる曽比奈下から曽比奈までの区間が個人的におすすめです。

曽比奈下から徒歩約15分 大淵笹場の茶畑

吉原中央駅への帰路 夕日とともに駿河湾へ落ちてゆく
実は一糸まとわぬ富士に未練が残り、後日再訪問し計2日にわたる取材になりました。晴天に恵まれやすい1月でしたが結局完全に雲のない富士山を拝むことはできず・・・ 2日目は日没まで粘りましたが残念な結果に。復路便ですっかり気落ちした素人写真家を美しい夕日が慰めてくれました。 富士山ライブカメラの映像によると他の多くの日は足元まで富士山が見えていたようですから、すべては運なのでしょう。
吉原駅…(徒歩3.3q)…吉原中央10:20−【富士急静岡バス420円】→10:45城山町入口…(徒歩1q)…八王子町12:31−【富士急静岡バス390円】→12:47一乗寺…(徒歩0.5q)…入山瀬駅
2019年1月の情報
※後日再訪問による計2日の取材
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