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 運賃の薀蓄(うんちく)
運賃に深く関わってきたこの「旅に出たくなるページ」が、
運賃について、節約術からくだらない話まで、いろいろ語ります。
(2010.1.3)
【1】運賃とは何か
まず素朴な疑問、運賃とは何でしょう。

▽運賃とは
(1)運賃の意味
大辞林にはこうあります。
「人が乗り物に乗るとき、あるいは貨物輸送を依頼するときに払う費用。 特に、交通機関・タクシーなどでは輸送距離に応じた料金をいう。」
大辞泉には注記が。
「近世まで「うんぢん」とも」

(写真1:日本最西端の駅 ゆいレール那覇空港駅の運賃表)

最近まで「うんぢん」と呼ばれていたとは意外でした。いずれにせよ、乗り物を利用するときに 輸送の対価として支払われるのが運賃と考えてよさそうです。

(2)運賃の歴史
前項の定義を考えると、世界ではかなり古くから運賃制度はあったことでしょう。日本でも最初の運賃徴収者は わかりませんが、歴史をひもとくと「馬借(ばしゃく)」というキーワードが出てきます。
馬借とは、馬を利用し、荷物を運搬する輸送業者で、主に室町時代から戦国時代にかけて活躍したとのことです。 この場合運搬するものは人ではなく荷物のようですが、運賃の定義にはあてはまるでしょう。北九州市小倉北区には その名も馬借という地名が現存しています。
時代を下ると、「駕籠屋(かごや)」という職業が見られます。これは「駕籠舁き (かごかき)」とも呼ばれます。運搬するものは物ではなく人です。近世になると、非常な高貴な身分の人だけでなく 一般の人も利用する機会が生じたので、運賃が身近なものになったはずです。
実は人の運搬では船の歴史がさらに古く、愛知県の豊川の渡し舟のように平安時代 から存続していると言われているものまでありますが、各地の架橋とともに急速に姿を消してゆきました。 この歴史の古さは陸上の運搬よりエネルギーの面でも優れているという点もあったためでしょう。

そして時は1872(明治5)年、日本で新橋・横浜間に鉄道が開通し、 1903(明治36)年には広島や京都でバスが運行されると、日本の鉄道、バスといった 公共交通の世界にも運賃が登場しました。この路線網が複雑になることで、運賃制度も複雑になり、時には当事者でさえ 説明がつかないものになってしまうのです。

(2010.1.4)
(3)運賃の推移
日本の国鉄を例に運賃の推移を見てみましょう。
新橋・横浜間の運賃は最も安い等級で37銭5厘とあり、現在の価値で約5000円との 記述をみかけます。現在は450円ですから、当時の運賃が非常に高かったとわかります。
その後運賃は物価に対して相対的にどんどん下がり、庶民が利用できるようになります。名実とも「公共交通」となりました。
最近の数十年に注目すると、長い間安かった運賃を国鉄末期に急速に値上げしたことがわかります。 同区間26.9kmは1969(昭和44)年には120円、1976(昭和51)年には230円、 1981(昭和56)年には350円、1986(昭和61)年には430円(国電区間)と、約10年 ごとに倍になってきたことがわかります。その後運賃値上げは落ち着きますが、消費税が導入されて現在では 新橋・横浜間は450円です。
また、1969(昭和44)年までは、1等、2等運賃があり、同区間の直前の2等運賃は100円とのことです。 1等は2等のおよそ2倍で、現在のグリーン車に相当します。 現在でも海外の国鉄を利用すると、インドなど多くの国で1等、2等という階級はよくみかけます。

(写真2:昭和40年のきっぷ 表)

(写真3:昭和40年のきっぷ 裏)
(4)運賃の比較
あなたは公共交通の運賃を高いと思いますか?安いと思いますか? 実態を広い目で見るため、少し海外の鉄道と比較してみましょう。
都市交通で比較しやすいのが地下鉄。まず東京の地下鉄である東京メトロの初乗り運賃は160円です。
そして世界で最も高いのはロンドンです。 初乗りが3ポンド(本日のレートで約450円)、これはイギリスの物価から見ても高いといえます。 逆に世界一安い部類に入るインド唯一の地下鉄カルカッタでは初乗りが3ルピー(同10円)で、 インドの物価から見ても決して高いものではありません。
近隣諸国で見ると、ソウルの地下鉄が1000ウォン(同80円)、上海が3元(同40円)で、 物価から考えても東京は世界的に高い部類に入ると考えてよいでしょう。こと国土全体を網羅する 国鉄に相当する交通で考えると、やはり日本の運賃は割高で、サービスの質と 運賃にはあまり相関関係はないという感想をもちました。

(写真4:インド国鉄)


(2010.1.5)
(付記)運賃無料
公共性の観点からも公共交通は低廉であるのが理想です。一般の市場主義の考え方にあてはめず、国や 自治体がその一部を負担して安価に輸送サービスを提供する例も多いようです。それが総合的に見て、 地域の発展につながり、交通会社単体ではなく、地域全体の利益になるという考え方によるものです。

日本でもわずかに無料の公共交通が存在します。
東京のお台場、丸の内、日本橋地区で運行される無料巡回バス、送迎バスに似た性格を持ちます。 特定の施設への送迎ではありませんが、各地区の活性化につながると考えられています。
群馬県伊勢崎市のコミュニティバス「あおぞら」は豊富な路線網を持ちながらも無料。 また高知県大豊町の町営バスも最近無料になりました。この他にも少数ですが いくつかの自治体が無料バスを運行しています。
さらに山形県の上山駅と蔵王を結ぶ長距離の無料シャトルバスなど、知っていると大変得する交通機関も。
一方短距離の渡し舟は今でも無料の船が多くあります。例えば群馬県と埼玉県の県境の利根川を渡る 赤岩渡船は、千代田町の交通の不便な地域の人の足として活躍しています。

これらは誰でも利用できますので、ぜひ利用してみましょう。できれば無料運行の期待にこたえられるように、 地域に貢献する買い物もどうぞ。

(写真5:運賃無料の赤岩渡船)



【2】複雑な運賃制度
時代が進み、路線網が広がり、文化が多様になり、運賃制度は複雑になりました。

(1)子供運賃
子供運賃は小人運賃と呼ぶ交通機関もあります。文字通り体が小さく輸送エネルギーが少ないという意味で運賃が 割り引かれているのでしょう。
日本の鉄道やバスでは一般に、中学生以上は大人運賃、小学生が子供運賃とされています。そして子供運賃は 大人運賃の半額です。私はこの区分に不満を持っています。倍額という段差が あまりにも大きいこと、そして生まれた月によってこの恩恵の受けられる期間が違う ことに対してです。4月生まれの人が13年子供運賃であるのに対し、3月生まれの人は12年だけです。
もちろん海外では学校制度も違いますから、多くは中学生という区分けはありませんし、12歳とも限りません。 よって、海外便もある飛行機業界では中学生ではなく12歳以上という年齢で区分するのが普通です。なぜ電車や バスは年齢で区切らないのでしょうか。これらが通学で使われ、通学定期の存在が関係しているのかもしれません。
中学生が子供運賃で乗ると不正乗車扱いされますが、いきなりの倍額に納得できない気持ちは理解できます。 海外では「中人」にあたる運賃設定で倍額の段差の緩和措置を試みている例を見かけます。

(2010.1.6)
(2)地域間格差
範囲の狭い公共交通機関では多くが同一の運賃制度で成り立っています。しかし、JRや一部の大手私鉄など、 広範囲を受け持つものでは、営業地域の間に利用客数などで大きな格差がある場合、 地域間に格差を設けている場合があります。
例えば近畿日本鉄道は利用客の少ない地域には加算運賃を徴収しますし、名古屋鉄道も閑散線区の距離を多めに 見積もって調整しています。
公共性の高い国鉄は、全国一律のサービスを提供するために運賃の地域間格差を設けていませんでした。しかし、 国鉄末期に私鉄との競合の対策として大阪に特定区間を設けました。さらに1984(昭和59)年には、東京、名古屋 地区にも適用するとともに、利用客の少ない路線を地方交通線として割高な運賃を設定しました。その後、国電区間や 山手線内といったさらに細かな分類が発生します。JR移行後は経営状況の悪い本州以外の会社にさらに加算運賃を 設けました。
大雑把にまとめると現在以下の5つの区分があります。
A.山手線・大阪環状線
B.電車特定区間(旧国電区間)
C.幹線(一般の区間)
D.地方交通線
E.3島会社(北海道・四国・九州)
これがもともと単純だったJRの運賃を、JRすら間違えるほど複雑にしている最も大きな原因です。

(3)一般運賃と最安運賃
運賃表に騙されるな!
東京圏の運賃表にはよく下の写真6のように、「この運賃表は在来線経由の最短経路で運賃を掲出しております。」との 注意書きがあります。東京近郊はどんな経路でも最も安い運賃(ここでは「最安運賃」と呼ぶことにします。)で 計算できるという特別な規則があります。そのため東京近郊では最短経路に最安運賃を適用させているのです。

(写真6:東京駅運賃表の注記)


(写真7:岡山駅運賃表は不親切)


(写真8:徳山駅運賃表は親切)

しかし大都市近郊以外では東京駅のような注記がない場合が一般的です。そのため最短経路による運賃や最安運賃ではなく、よく使われる経路での 運賃を示している場合があるのです。
例えば上の写真7は岡山駅の運賃表。総社以遠の伯備線の運賃は一般的な倉敷経由のものが表示されていますが、これは最安運賃では ありません。備中高松を通る吉備線を経由した方が短く安いのです。この運賃表では新見まで1450円と表示されていますが、 私の運賃表は最安主義なので吉備線経由の1280円が表示されます。しかしこの実際の運賃表を見て1450円を払う人がほとんどでしょう。 1円でも節約したいあなたは、みどりの窓口で吉備線経由の1280円のきっぷを買うことをお勧めします。差額の170円は大きい金額ですよ。
その一方で写真8は徳山駅の運賃表。複雑な宇部付近の路線ですが、どちらの経路で行くといくらか2通り書かれいます。 なんと親切な運賃表でしょう。
あなたの最寄り駅の運賃表は親切ですか?事前にこのページで調査して騙されないようにしましょう。

(2010.1.8)
(5)大都市発着運賃
これはJRに特有な制度ですので、ごく簡単に。
東京、大阪、名古屋など、比較的古くから政令指定都市である都市にある駅との運賃は、その都市の代表駅との距離が 200kmを超える場合、代表駅との距離で計算するというものです。この特例は運賃計算を楽にするために設けられた 制度ですが、さらに複雑化する運賃体系によって、後に紹介するような大きな矛盾を生じてきました。そのためか 最近政令指定都市になった岡山市や新潟市などには適用されていません。

(6)乗継割引運賃
2つ以上の会社線にまたがって乗車するとき、その一方の乗車距離が短いときに運賃割引を実施している場合が 多くあります。例えば東京都営地下鉄と東京メトロの両地下鉄を乗り継いだとき、運賃は両方の合計額から70円 割り引いた額になります。これを知らずに別々にきっぷを購入すると大変割高になります。 特に私鉄の多い大都市圏では、通常は乗り継ぎのための運賃表もならべて掲出されているので、数種類の運賃表がある場合は 全てに注意しましょう。
連絡運賃表を見ないあなたは確実に損をしています!

(写真9:東京駅近郊連絡会社線運賃表)


(写真10:なんば駅連絡運賃表)


(2010.1.27)
(7)加算運賃
後に延長された区間などで、当該区間の工事費が多額にかかった場合に、基準となる運賃以外に加算運賃が設定される ことがあります。例えばJR四国では瀬戸大橋を通過する場合に原則として100円を加算しています。

※(付記)遠距離逓減制
長距離で利用するほど「運賃÷利用キロ数」が低くなるように設定されている。(wikipediaより)
これを遠距離逓減(ていげん)制と言います。一部の公共交通においてはどの区間を利用しても均一 運賃という、いわば究極の遠距離逓減制を採用している小さな鉄道会社もあります。


【3】運賃の矛盾
では複雑な運賃制度ゆえに生じている運賃の矛盾を具体的に見てみましょう。
(一部以前に当ページで紹介した例も含みます)

▽遠い方が安い
(1)若松・佐伯問題
前の【2】の(5)で紹介したような大都市発着運賃が引き起こした問題があります。 以前北九州市内の若松駅と日豊本線の佐伯駅の間の運賃の矛盾が代表例として話題になったことから、 「若松・佐伯問題」とも呼ばれているようです。
下の図11で小倉駅より200kmを超える上岡以遠は大都市発着の特例が適用され、小倉からの運賃(3880円)が 適用されます。 一方200km以内で特例の適用されない佐伯以前の駅は通常の若松からの運賃(4200円)が適用されます。 すると、佐伯より遠い上岡までの運賃の方が安いという逆転現象が起きます。
この矛盾に対処したのが旅客営業取扱基準規程第114条、手前の駅の運賃を下げて逆転現象を解消することを 可能としています。「可能」と書いたのは、こちらが申告しない限り係員はこの規程を適用する義務がないらしいから です。場合によっては補正前の運賃を請求されるとのこと。
同様の例は市の中心駅から末端までの距離が長い札幌市内、仙台市内、広島市内などの末端駅発着の場合によく見られますが、 運賃検索サイトの多くでは補正後の金額を表示しているようです。

(図11:補正前の若松駅運賃表)


(図12:補正後の若松駅運賃表)

(2)東山梨・浅草橋問題
これも以前紹介しました東山梨駅運賃表。東京駅から100kmを超える当駅発着の場合、山手線内の駅までは 東京駅までの運賃(2210円)で計算されます。これが適用されない山手線外の浅草橋までは普通に計算され、 図13のように1890円となり、手前の駅より安くなります。
同様の例は、水戸〜赤羽や山前・駒形・磯部〜三河島の運賃などに見られます。 駅の路線図運賃表は通常100km以下の区間しか表示されませんから、東京近郊では1890円までの記載しか ありません。このページのような広範囲な路線図運賃表によって実態が鮮明になる矛盾なのです。
この矛盾を補正する条文は見当たりませんし、運賃検索サイトでもこの矛盾を残したまま表示しているようです。

(図13:東山梨駅運賃表)

(3)八幡・宮島口問題
勝手に命名しました。これは大都市発着運賃と3島会社の加算運賃の相乗効果で 引き起こされ、いまだ一般の運賃検索サイトでも逆転現象が残っているものです。

例えば、右の鹿児島本線八幡駅の運賃表を見てみましょう。
山陽本線の宮島口までの運賃を調べると、3620円と表示されます。 それより遠い広島駅までの運賃を調べると、なんとそれより安い3610円。これは広島が北九州市の 中心駅の小倉から200kmを超えるため特例が適用され、小倉までの九州内加算運賃が八幡までのそれより 安いことが原因です。この矛盾はいまだに補正されていないようです。

(図14:八幡駅運賃表)


(2010.2.2)
▽分割した方が安い
運賃には一般に前に述べた遠距離逓減制が適用されているので、長距離で乗った方が得になるはずです。 しかし複雑な制度によって、この原則は実に多くの区間で破られています。

(1)運賃表の境界(一般区間)
右の表14はJRの一般的な区間の運賃表です。乗車する駅間距離を小数点第一位を切り上げることで、 運賃を計算しますが、ここに運賃表に距離ごとの境界が生じています。例えば東京と藤沢の間は51.1km ですから、切り上げた52kmでは950円と なります。しかし節約派はあと1.1km短ければ一段安い820円で済むのにとくやしがる(?)ことでしょう。
しかしこの51.1を36.1と15に分割できれば、それぞれ650円と230円で合計880円と、 70円得になります。そういう中間駅を見つけられれば、分割することによって安くなるのです。
昔の運賃表は距離の区分が非常に細かく、各運賃の金額の段差が初乗り料金を上回らなかったので、 このような矛盾は起こりませんでした。
それが利潤の追求と簡略化のために、初乗り料金を大幅に値上げし、距離の区分を 粗くしたため、このような矛盾例が多く発生することになったのです。消費税の導入とその四捨五入がこれに拍車をかけました。

(2)適用運賃表の境界
今までに説明してきましたように、路線によって適用する運賃表が異なります。例えば以前国電区間と 呼ばれた大都市の電車特定区間の路線は、一般の路線の適用する運賃表とは異なり、割安です。そして問題は、 少しでも割高な区間を利用すると、全区間に割高な運賃表が適用されてしまうということです。
前に例であげた藤沢について見てみましょう。東京から途中の大船までは電車特定区間です。そこでその区間の中でも横浜駅で 分割して考えると、東京と横浜の間は28.8kmですが、運賃は割安な電車特定区間で450円、横浜と藤沢の間は22.3km、 一般の区間の運賃表で400円で合計850円。通しで買うより100円も安くなるのです。

(表15:JR一般運賃表)


(2010.2.11)
(3)大都市の境界
これも前に触れたように、大阪、名古屋、仙台など政令指定都市の多くは、市の代表駅からの距離が200kmを超える場合、 その代表駅発着で計算するというものです。この制度では、特に市の区域が広い場合に矛盾が生じやすくなります。
例えば右の表15は下関駅発の広島付近の運賃表。芸備線を見てみると 広島市内の井原市までは特例により広島と同額の3570円が適用されますが、広島市内ではない一つ先の向原は通常の4310円、 さらに先の吉田口は4620円が適用されます。もうお気づきだと思いますが、井原市まで(広島市内行き)の切符を買って、 井原市から向原なら180円、吉田口なら230円の切符を買いなおしたほうがはるかに安上がりです。 吉田口なら合計が3800円ですので、820円もお得です。
(なお、100kmを超える場合、乗り越しの精算は打ち切りによる計算が可能なので、わざわざ井原市で降りる必要もなく、 下車駅で乗り越しの申告をすればよいだけです。)

(表16:下関駅運賃表)

以上のように、JRの主張のように「切符は正しく目的地まで」買うと、 節約派のみなさんにとって損になる場合があるので、要注意です。 「切符は賢く目的地まで」買いましょう。
ここまでの運賃の矛盾が、後の節約術につながるのですが、難しい話はいったん中断します。


(2010.2.14)
【4】運賃の雑学
ここで「運賃の薀蓄」らしく、息抜きに国内の交通機関の実際の運賃を見てみましょう。

▽安い運賃、高い運賃
(1)安い運賃
すでに無料の交通機関を紹介しましたが、それを除いて日本の公共交通の最低運賃はいくらでしょうか。
まず代表的なJRでは、大阪環状線と大阪の電車特定区間の初乗り運賃である120円が最も安いと わかります。それ以外の私鉄では鳥取県の若桜鉄道の一部区間で60円の設定がありましたが、2007年に値上げしたため、 北大阪急行の80円が最も安いとのことです。
安い運賃といえば、「1円電車」を忘れてはいけません。1985年まで兵庫県の明延鉱山で 運転されていた鉱山鉄道です。ただし1円は人数確認のためだったらしいので、実質的に運賃とは言えないのかもしれません。 また一般向けではなく、残念ながら1985年の時刻表にさえ載っていませんでした。最近観光用に復活の動きも。
鉄道以外では、 北九州市の若松と戸畑を結ぶ若戸渡船、最近まで市販の時刻表に掲載されている 公共交通の運賃としては最も安いものでした。下のように1985年当時は運賃わずか20円、その後値上げが繰り返され 現在は100円となり、価格面での魅力は薄れました。
なお尾道と対岸の向島を結ぶ運賃60円の渡船がありますが、これが現在の最低運賃でしょうか。
その後情報を頂き、上記60円よりさらに安い初乗り運賃があるようです。茨城県稲敷市のブルーバスは2012年7月現在、初乗りが50円で、10〜20円刻みの上昇とのことです。 (2005年9月時点では長崎県新上五島町営バスが初乗り40円でしたが、その後値上げされてしまったようです。)
(2012.8追記 情報提供けちまん様)
さらに、松江市の矢田渡船が40円で運航していることがわかりました。2013年1月に現地で確認しています。
(2013.5追記)

(写真17:若松-戸畑の渡船は運賃20円だった:1985年時刻表より)

(2)高い運賃
では逆に高い運賃を調べてみましょう。ただし考えられる比較方法はさまざまなので、ここでは1駅間など 最も小さな単位で考えることにします。
JRでは、やはり駅間が最も長い区間ということになるでしょう、青函トンネルをはさんだ 津軽今別と知内の間は1230円で最も高そうです。 (中間に2つの海底駅がありますが除外して考えます。)知内駅の運賃表を実際に調べてみると、 路線図形式のものはなく、しかも右の写真のように津軽今別までの運賃は書かれていませんでした。
一方、船では小笠原海運の東京と父島の間は途中寄港地がなく、運賃は今日現在23250円で最高のようです。
このほか新穂高ロープウェイは第2ロープウェイが1350円ですが、索道ではこれを上回る運賃はあるのでしょうか。 私はこれを下りでしか利用したことがないので、何となく損をした気分です。なぜ上りと下りで運賃が同じなのか、 少し疑問に思う今日この頃です。
参考までに飛行機の場合、国内で最も長い航路と思われる、東京と石垣の正規料金が59400円、また全日空の 仙台と那覇は50600円です。これらを正規料金で乗ることはあまりないと思いますが。

(写真18:知内駅運賃表)


(2010.2.23)
(3)きりの良い運賃
私の知る限り、現在1の位が0ではない運賃(例えば123円など)はありません。これは事務処理上の 面倒さを避けることが一番の目的でしょう。また扱う硬貨の種類が少なければ、券売機など導入する機械の費用も 簡易で安上がりで済みます。
運賃を設定する場合、計算によって生じた1の位は、切り上げまたは切り捨てによって端数処理をします。これは 子供運賃で半額の計算をするときによく問題になります。 JRでは切り捨て、他の私鉄では切り上げをしている例が多いようですが、これに関しては各社自由なのでしょうか。

さて、最近では10の位でさえ面倒だということで、近距離バスなどを中心に100円、200円という大雑把な 運賃体系をとる交通機関もみかけます。小銭が少なくてすむという利点はありますが、値上げのときに一気に2倍という 例も見かけます。
モノレールや路面電車を除く一般の鉄道ではさすがに100円刻みという例を見かけませんが、1つの硬貨または紙幣でお釣りのない 「ちょうど運賃」がいくつか存在するようなので、調べてみました。
<運賃100円>
前述の北大阪急行も初乗りは80円ですが、その上が残念ながら110円。意外に100円という運賃設定は見つかりません。 しかしようやく見つけました。静岡県の遠州鉄道は初乗りが100円でした。 はたして他にもあるのでしょうか。
<運賃1000円>
これはいくつか例を見かけます。例えば京成電鉄の成田空港から京成上野までは1000円ぽっきり。海外旅行前後で小銭を 用意しなくて良いという点でうれしい配慮?です。
さて、問題はJRで1000円区間があるかという点。一般の距離別運賃表には1000円という文字は登場しないので、 少しだけ特殊な例であることがわかります。調べた結果全国にわずか数区間、山口県と福岡県の間にこのような1000円ぽっきりが ありました。例えば、厚狭と八幡の間。これは基礎となる運賃950円に、九州の加算料金50円を 合計した結果です。実はありそうであまりない全国でも稀有な1000円運賃なのです。
<運賃10000円>
これだけ高い金額はもはや一つの私鉄ではありえません。そこでJRを調べると、これも少ないのですがやはり本州と九州の間で数例 あることがわかります。例えば米原と東郷の間、しかも新幹線でなく下関駅を経由する必要があります。 このような長距離を普通列車で移動する人は稀でしょうから、「運賃は10000円です。」と言われる確率は宝くじ当選より難しい とも言えます。
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